2011年3月5日土曜日

万能感とその克服




万能感は自分で生きていけないこどもが親の保護を誤解することで生じます。
保護者の保護的な気持ちから生じる行動を、自分を主体にして自分の力であると錯覚してしまうことから始まります。これ自体はとても自然なことで特に問題はありません。

やがて万能感は、家族生活さらに団体生活を体験しながら、ゆっくり排他していくものですが、それに失敗してしまうことが多々あります。
その原因をいまさら云々しても解決の対策にもならず、時間のムダですのでおすすめしません。


「なんでも思う通りになる」・・・これが万能感です。
こどもがギャギャーないているのは、保護者を自分の思い通りにさせようとするからです。言葉が使えるようになると、さすがに親も従いません。この態度を、親がたしなめるようになると、今度は「ラケット」という行為を使います。
「ラケット」とは、ふくれる、悲しそうにするなど、工夫した態度をとることで、他人(特に心理的に身近な人)をコントロールすることです。
これらは万能感から生じる典型的な行動で、うまく成功して、味をしめるほど継続して使うようになります。

しかし、この万能感はいいことばかりではありません。危険な落とし穴があります。
なんでも自分の思う通りになるとは、裏返せば、ずべて自分の責任に感じるということです。つまり過剰な支配性は過剰な責任性と表裏一体なのです。

「おまえがそんなことをしなかったら、こんなことになっていない」
このひとことは、過剰な責任性を持ったものにはナイフのように届きます。

成長と共に、支配性は弱まる一方ですが、過剰な責任性はどんどん発展します。
オセロゲームで、自分の駒が相手の色に変わるような状況です。
この「過剰な責任性」が混乱を引き起こします。
たとえば、「じぶんがいい子だったら、親は離婚しなかった」というような感じ方をします。
実際には、離婚はこどもの存在が原因ではありませんが、こどもは万能感を持っているので、そう感じます。
離婚するときに親はそこまで考えないものですが、片親がいなくなって寂しいだろうというレベルを超えて幼い心に深い傷を与えることになります。

こどもは責任をとることに過剰に敏感になり、勇気をくじき、責任からの逃避が習慣化します。
成長とともに、人間関係も多様になりますが、家族内だったこの態度がすべての人間関係に広がります。
つまり「自立できない自分」を根拠もないままに「生きる構え」を確立してしまいます。

「過剰な支配性と過剰な責任性」を同時に持ち合わせて、社会にデビューすると、人間関係はとても疲れるものになります。
そもそも人は孤独に弱いものです。そこでぬくもりを求めながら、避けようとすると、自分でもどうしていいのか分からないわけですから、相手も困惑します。

この状態に対応できる人は3種類です。

・原理を理解した上で自分が確立できていて、揺らがない人(分かった上で受容)
・同じタイプ(分からないまま波長が合う)
・気のいい人(分からないまま受容、但し限界がある)

このうち、恋愛、結婚相手になる確率の高いのは<同じタイプ>です。その関係性は、子育てに反映されます。

万能感の影響を受けた現象には、次のようなものがあります。

・「すべてか無か」「イエスかノーか」「白か黒か」
・感情即行動
・不安に弱い、不安の正体は不信
・人の境界が曖昧
・相手をコントロールする

これら重大な誤解には「過剰な責任性」があります。
大人の社会に持ち込んでしまうと、人間関係の誤解に発展して、次のような態度になって表出するようになります。

・「じぶんに必要なことは他人の重荷になる」という誤解
・したがって、自分の欲求に罪悪感を持つようになる
・するべきこととしなくていいこと、絶えるべきことと耐えなくていいことが混乱
・罪の意識を持ちながら欲求を満たそうとするので、率直、誠実でなくなる
・自分の能力を低く評価するので自己責任で行動することの不安になる
・こども時代の硬直した過去のパターンを大人の世界に持ち込む
・相手をコントロールをしょうとする
・コントロールによって相手の責任で行動させようとする
・罪の意識がない場合には依存的になる(コントロールで感じることが反転)
・自分の重要な人間関係で障害が生じる
・必要、世話を焼いてもらうことと愛情を混同する(境界の混乱が生じる)
・権利の認識に困難が起こり、人間関係の難易度が高くなる
・不安から心を閉ざし混乱した行動をとる、
・現状を現実を否認する
・結果が明らかになる段階では、自分が否定されないように予防線を張る。

このように、誤解から生じた罪悪感は不安を誘いますが、それでも、こども時代に役立った無意識の古いパターンに固執するため、自分を幸福から遠ざける作用しかない行動を連鎖的に重ねます。
大人になったいまではある特定の人との間で通用するだけで、全般には障害になるだけです。
その不満がアンビバレンツ(相反する)な感情を持つことになり、ストレスに振り回され、自分の気持ちを自分で収拾できなくなります。
さらに相手との関係では、自分へのあり方が反転して、次のようなことが起こります。

・「自分の欲求は相手の重荷」は裏返せば「相手の欲求は自分の重荷になる」
・不安から深い人間関係を避けようとする
・交流を求めながら、相手の欲求に不安を持つのでアンビバレンツになる
・ギブ&テイクが苦手になる
・「間違ったギブ&ギブ」か、「テイク&テイク」の依存的な関係になる。

この自分や相手とのプロセスを見ても分かるように、その間の心理的なプレッシャーは相当です。ある人には、簡単なことが、命懸けのような心理的負担の上での行動になります。
ガスコンロのスイッチを押せばお湯が沸かせますが、万能感を持って行動していると、山に木を伐採に出かけて、薪でお湯を沸かしているようなものです。
ものすごいエネルギーが使われることになり、必要なことに自分を使うエネルギーが残っていないような状態になります。
この解決方法は、なにより「誤解を正すことです」
誤解を正すには、次のように考えましょう。

まず、過去のパターン、やり方をいきなり投げ出そうとしないことです。
このクルマは使い物ならないというわけにはいきません。この世界にたったひとりしかいない「あなた」という価値あるもの。故障した「大事なビンテージなクルマ」を修理する要領です。
壊れている原因はクルマに欠陥があったのではなく、使い方が悪かったからです。

だから、使い方を理解しながら、不具合箇所をひとつずつ変えていきます。
つまり、本来の自分に回復させるのです。誤解を正すには、手順があります。
まず「知る」「理解する」ことです。

・行動に間違いがあるが、人格が劣っているわけではない。
・基本的な人権、自分と他者は別の人格を認識する
・人間関係はギブ&テイク(おすすめはギブ&ギブ*別の機会に説明)だと知る
・コントロールはこども(弱者)のテクニック
・コントロールは依存的な関係しか作らない
・じぶんへの不信、他者への不信がある
・感情に対する誤解を正す
・感情を抑圧することは自分にも周囲の人にも不幸、不快しかうまない
・感情即行動は自分にも周囲の人にも不幸、不快しかうまない

次に行動を起こします。

・自分の欲求は言葉で伝える
・人間関係はギブ&テイクを実行する
・コントロールを放棄する
・感情を抑圧しないで、感情を率直に言葉で伝える。
・自分の意見を率直に言葉で伝える。
・この混乱を解消するには「境界」つまり「基本的な人権」を尊重する
・予期せぬことが起こっていても感情意的にならず冷静に対処する

このプロセスで注意してほしいことがあります。
・過去の問題を処理する必要はない、過去の痛みを掘り起こす必要はない

実行段階では、自分のスタイルの確立に向けて、ゲンキポリタンが推奨している「ゴールデンルール」を使って、自分の目的、やりたいことに取り組むようにします。ゴールデンルールとは、積極的に取り入れる自分の行動基準(スタンダード)です。
この場合、誤解を正せないまま取り組むと、とても苦しく感じるので続きません。でもその苦しさが測定のバロメータになります。
上手に使うことで、本来の自分に回復させることができますので、放り出さずにひとつひとつを修復しながら継続しましょう。